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防げなかった殺人蟻ヒアリの上陸

ヒアリの画像

国内初の殺人蟻の上陸

5月20日に中国の広州市の南沙港から神戸港に到着した貨物船に積まれていたコンテナから、26日に兵庫県尼崎市で積み荷を取り出す際に数百匹の蟻が卵や幼虫とともに見つかった件で、6月9日に殺人蟻の異名を持つ南米産のヒアリ(火蟻)ヒアリと確認されました。その後、新たにコンテナが5月25日まで一時的に保管されていたコンテナヤードで100匹のヒアリが確認されました。今回発見されたヒアリは保管されていたコンテナの場所から20~30m離れていたようです。

その後の調査で、新たに大阪港、名古屋港及び東京港大井ふ頭で発見されました。神戸港では女王アリも発見され駆除されましたが、女王アリが全て駆除されたかどうかは分かりません。(7/8追加記載)

神戸市の見解と対応

神戸市は、コンテナヤードと住宅街は約2kmと離れているため。現時点では「安全は確保されている」としていると説明。また、コンテナヤードでは女王蟻がいる巣ができる可能性は低いとしていますが。現に卵が見つかっていますので巣が出来ている状態と思われます。ただ、「万が一のため、徹底駆除する」としているものの、この程度の意識では不安が残ります

国内上陸・侵入の可能性

コンテナから発見された当時、ヒアリの卵や幼虫がいたことが確認されていることから女王アリがいたのは確実で有ろうと考えられます。その女王アリが発見されていないということは、既にコンテナヤードから離れている可能性が高くなります。ヒアリの兵隊アリは羽は有りませんので飛んで移動することは出来ませんが、女王アリと雄アリは羽が付いており飛んで移動することが出来ます。但し、女王アリと雄アリが飛ぶのは産卵期の前で産卵したら羽は取れて幼虫の餌になります。なお、女王アリは1日に1,600個の卵を産むと言われています。女王アリの飛翔可能距離の範囲を徹底して調査する必要が有ります。

防げなかった水際作戦

今回のコンテナの流れを報道されている内容から見てみますと、輸入貨物についての税関検査がされている形跡が確認できません。税関検査は全ての輸入貨物について行われるものではないようですが、これでは社会悪物品や特定外来生物の侵入を防ぐことは出来ません。つまり、密輸の防止、覚醒剤・拳銃等の危険物、特定外来植物・動物の侵入を防げないことになります。現在の状況が続けば、今回仮に侵入を防げているとしても、極めて近い将来侵入を許すことは確実です。

海外からの輸入品購入時の注意

これだけヒアリが見つかったということは、コンテナの中身は既に別な場所に移動している可能性が有ります。それらが中国から輸入された衣服及び家電製品であれば、それらと一緒にヒアリが移動し、家庭内に入り込み被害に合う可能性が極めて高くなります。仮に女王アリが紛れ込み受精していれば毎日1600個以上の卵を産むことになります。特に、中国から輸入された商品を開封するときは十分に注意した方が無難です。
前述の様にこれだけ多くの場所で発見されたということから、水際作戦は失敗したと考えた方が間違いありません。

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ヒアリの特徴

ヒアリの外観・生態

ヒアリは、別名アカヒアリと呼ばれています。漢字では、火蟻と書きますが、これは刺されると火傷のような激しい痛みを感じるところから付けられています。働きアリは、体の色は赤茶色で体長2.5 ~6mmと大きさにバラツキが有ります。その他雄アリと女王アリがいます。雄アリと女王アリには羽が生えています。ヒアリの特徴として、土でアリ塚を作ってすみます。

ヒアリの攻撃パターン

ヒアリはお大あごで咬んで自らを相手方に固定し,咬んだままで弧を描くように体を回転させながら繰り返し刺します。この攻撃パターンにより中央の咬んだ部分が赤くなった刺傷ラインで部分的に囲まれた,特徴的な咬傷ができます。

ヒアリの毒性

ヒアリの毒成分は、アルカロイド毒であるソレノブシンの他、ハチ毒と共通のホスホリバーゼやヒアルロニダーゼなどが含まれています。アルカロイドは、種類が非常に多く医薬品として利用されている物から、トリカブト毒のアコニチンやカフェインなどが有ります。

なお、日本に多いヤマアリやケアリの毒は蟻酸(ギ酸)と呼ばれるものですが、皮膚の場合は炎症を起こしますが、目に対して強い毒性があり失明に至ることがあるとの報告が有ります。アレルゲンとしての危険性も指摘されていますが、一般に症状は軽く、ヒアリの毒とは比較になりません。

ヒアリの毒性分は、強い毒性を有し毒針で刺されるとアレルギー反応により死にいたることが有ります。特に、先天的にアレルギー抗体(ハチ毒アレルギーを含む)を持っていたり、刺されるのが二回目で一回目から期間が短い場合は、アナフィラキシーショックを起こす確率が高くなります。アメリカの場合は、年間1000万人~1400万人がヒアリに刺され80,000人病院で受診し100人が死亡すると言われていましたが、データとしての根拠は無いようです。正確なところは死亡例があると言う程度の様で、実数は把握されていません。環境省のホームページからも具体的な数値は削除されました。仮に、1000万人が刺され100人が志望したとすれば割合にして、僅かに0.001%となりますが、救急処置により助かった例も数多くあると思われますので、放置したり、軽く考えるのは極めて危険であることに変わりは有りません。毒はアルカロイド系の強い毒で、大あごで咬みつき、腹部の先端にある毒針で何度も刺します。また、巣を刺激すると集団で一斉に攻撃してきますので、間違って巣を踏んだりした場合は直ちにその場所から逃げなければいけません。被害は人間に限らず、家畜やペットにまで及びます。

ヒアリの毒による症状

痛み、かゆみ、発熱、じんましん、膿疱、浮腫,紅斑,およびそう痒を伴う病変が生じる他、激しい動悸等の症状が表れますが、症状の表れ方、程度はまちまちです。重症の場合は、アナフィラキシーショックを起こしこん睡状態に陥ることも有ります。重症化が10%、アナフィラキシーショックが1%程度の頻度で発生するとの報告も有ります。

20~30分程度様子を見て急激な症状が出ない場合は、ゆっくり病院を受診してもよろしいでしょうが、体調の悪化が認められる場合は、直ちに最寄の病院を受診して下さい。症状には個人差が有りますが、程度については概ね以下の通りに分類できます。

軽度の症状

刺された瞬間は熱いと感じる激しい痛みがあっても、刺された部位に痛みやかゆみが有る程度。10時間程度すると膿が出来ます。刺された部位は、白く膨らみますがここに毒が有ります。アメリカの民間療法では、針で刺して毒を出す方法も有るようですが素人療法はしない方が無難です。

中度の症状

刺されてから数分から数十分後に刺された部位を中心に腫れが広がり、部分的にかゆみを伴うじんましんが表れます。場合によってはじんましんが全身に及ぶ場合も有ります。

重度の症状

刺されて数分から数十分の間に息苦しさ、声がれ、激しい動悸やめまいなどの症状が表れ、進行すると意識を失うことが有ります。これらの症状が出た場合にはアナフィラキシーショックの可能性が高くなりますので、処置が遅れると命の危険性も有ります。アナフィラキシー症状は、発症から15分以内の治療開始が望ましいとされていますので、発症してから病院に駆けつけても間に合わない可能性が有りますので、アリに咬まれて状態がおかしいと思ったら、すぐに病院に駆け付けるか救急車を要請した方が無難です。なお、診療科は、皮膚科、内科、外科のいずれかでも良いとされています。

ヒアリの分布

ヒアリの分布
出典元:環境省自然環境局資料

原産地は、南米中央部ですが、現在環太平洋地域であるアメリカ合衆国、カリブ海諸国、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシア、中国、台湾で確認されています。
アメリカでは、1930年に初めて確認されて以降南部を中心に現在15州で確認されています。

ヒアリの住処・アリ塚の外観

ヒアリの営巣は、農耕地や公園などの草地や裸地に多く作られます。巣は、直径25~60cm、高さ15~50cm程度のドーム状ですが、高さは90cm、深さは180cmにもなる場合が有ります。アリ塚から四方八方ににトンネルが伸びており、働きアリはそのトンネルを通って行き来していますから、アリ塚の中心から離れていてもヒアリがいることになります。

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ヒアリと国内種(在来種)の違い

日本国内には約270種類のアリが生息していると言われています。ほとんどが黒色のアリですが、一部に素人ではヒアリと区別が難しい赤色系のアリがいます。但し、アリの分布は主に関東以西で東北及び北海道は非常に少なくなっています。

国内種(在来種)との営巣の違い

在来種の中でアリ塚を作るアリはいません。ですから、アリ塚があったら外来種と見ることが出来ます。そして、体色が赤茶系であればヒアリの可能性も否定できませんので、直ちに現場を離れ、地方環境事務所等の役所に通報しましょう。

ヒアリに外観が似ている在来種

ヒメアリ

ヒメアリの画像
出典元:日本産アリ類画像データベース

体長1.5~3mm程度で、刺されても余り痛みは感じません。体色は、頭部から後腹柄節にかけて黄色から黄褐色、腹部は褐色から黒褐色の明瞭な2色に分かれます。体表面に彫刻は無く、滑らかで光沢が認められます。林縁から草地にかけて生息し、石の下、メダケなどの植物体の空隙に営巣します。主に関東以西(東北は宮城県のみ)に生息し、西・南日本では普通に見られるアリです。

 

カドクシケアリ

カドクシアリの画像
出典元:日本産アリ類画像データベース

体長は4mm程度。体色は褐色、頭盾前緑中央部はへこんでいます。頭部背面、胸部、腹柄背面のしわは強く刻印されしわとしわの間は広い。比較的稀で山地帯の林床が混みあっていない森林や林縁部に生息が確認できます。奈良県、岐阜県、栃木県、宮城県、山形県。新潟県及び北海道で生息が確認できています。

 

アズマオオズアリ

アズマオオズアリの画像
出典元:日本産アリ類画像データベース

体長2.5~3.5mm程度。体色は、黄褐色から赤褐色で腹部は暗色となることもある。東北・北海道等では平地に,九州・西日本などでは山地に分布し,林内の石下や朽ち木中などに好んで営巣します。秋田県を除く略全国生息しています。なお、オオズアリ属の中で、ヒメオオズアリ及びブギオオズアリが体色がヒアリに似ているものの体長が1.5mm程度と小型のアリであり比較的容易に区別できます。

予防

有効な予防は、ヒアリに刺されないようにすることですが、現在分布が確認されている地域に旅行及び業務で赴く際には、日本の様に芝生で寝転んだり、無造作にベンチに腰掛けない等の注意が必要です。

また、ハチ毒アレルギーが有る方は、毒物免疫療法が有効であり,アナフィラキシー症状の可能性が,2年間治療した後では50%から約10%まで低下し,3~5年治療を行えば2%程度まで低下すると言われています。ヒアリ予防対策だけでなく、過去にスズメバチに刺された経験のある方はスズメバチによる二度目の被害でアナフィラキシーショックを予防する上でもお勧めです。毒物免疫療法は,妊婦に対しても安全であるとされていますので医師と相談の上お試しください。

なお、最近スズメバチに刺された経験がある方は、アレルギー検査を行いハチ毒アレルギーが確認された方は、医師と相談の上アドレナリン自己注射薬や、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬の内服薬を携帯するのも必要かもしれません。特に、近くに病院が無い登山やハイキングに行く場合は、スズメバチに刺されるリスクが有りますので有効です。