加計学園疑惑関係流出文書の真贋について前事務次官が証言
証言した前川喜平前文科省事務次官
5月25日発行(6月1日号)の週刊文春が文科省から流出したとされる加計学園が運営する岡山理科大学の獣医学部新設に掛かる一連の文書の真贋について、前川喜平前文科省事務次官のインタビュー記事を掲載しています。前川喜平氏は、今年1月まで文科省の事務次官を務めており、正に加計学園が獣医学部新設に向けて動いていた時期に文科省事務方のトップとして関わっていた人物ですが、文科省の不正天下り問題の責任を取る形で失職しています。
前川前事務次官はひ、1979年東京大学法学部を卒業後、旧文部省に入省。存在が霞が関で有名になったのは、初等中等教育企画課長時代の2015年、ブログで小泉純一郎首相(当時)の三位一体改革に真っ向から歯向かう内容で「クビと引き換えに義務教育を守れるなら本望」と綴っており、官僚らしからぬ型破りな面がある一方、部下の面倒見も良く省内では『ミスター文科省』と呼ばれていたこともあるようです。そして、2016年6月に事務次官に就任し獣医学部新設問題に関わることになります。
文科省流出文書とは
流出の発端
安倍首相が自他ともに認める腹心の友である加計孝太郎氏が運営する加計学園の岡山理科大学の獣医学部新設に関して特別な便宜を図ったのではないかとの疑惑に関しての文科省の内部文書です。文書の存在が明らかになったのは、5月17日の朝日新聞の朝刊による報道が発端です。その文書は、特区を担当する内閣府が、文科省に対して「官邸の最高レベルが言っている」とか「総理のご意向だ」なとど言って対応を迫った、というものです。
政府の対応
これに対して、菅官房長官は、「全く怪文書みたいな文書じゃないか。出所も明確になっていない。」と文書の存在を否定しましたが、その後オフレコの場で「これは天下り問題が決着した後に各社に配っているんだろ。(天下り問題での政府への反撃なのか?)知らないよ。配っているんだよ、しかも、元最高責任者が。」と述べたようです。菅官房長官は、ここで元最高責任者という言葉で前川前事務次官を名指ししていることになります。
その後、文科相が記者会見を行い、文書の存在が確認できなかったと述べましたが、存在しなかったとは言っていませんので、含みを持たせたことになります。
前川前次官に対するネガティブキャンペーン
その後、読売新聞が朝刊で「前川前次官 出会い系バ―通い」と報道しました。文春によると、官邸担当記者の話として、「読売と言えば、首相が改憲を巡って国会の場で『読売新聞を熟読して』と発言するなど、官邸から覚えめでたい媒体です。しかし、不倫や女性問題などの”下ネタ”はほとんど報じない大新聞が、現職で無い元役人の、しかも違法でもない行動について書くとは驚天動地でした。さらに、読売新聞は、官房長官会見でも、この記事について質問し、産経新聞が後追いするなど、官邸に近いと言われるメディアから、前川氏の信用を低下させる報道が相次ぎました。ただ、他メディアの間では、『それほど官邸は、”総理のご意向文書”を警戒しているのか』と見られています。」と伝えています。
文科省流出文書の内容と前次官の証言
獣医学部が新設されなかった過去
獣医学部新設の流れを前川前次官のインタビューを引用しながら簡単に追っていきますと、
文科省は、犬、猫、牛、豚をはじめ動物の数は年々減っており、獣医師の供給不足は起きていないとして、長年獣医学部の新設を認めてこなかった。
石破茂地方創生相時代の2015年6月に、政府は獣医学部新設の四条件を閣議決定。新設は、既存の獣医学部で対応できないニーズに応える場合に限る、といった内容で高いハードルが設けられました。
その後、地方創生相に就任した山本光三大臣(「学芸員はがん」や「大英博物館は学芸員を全員クビ」の問題発言者)は、安倍首相のイエスマン的存在で就任後学部新設にのめりこんで行きます。それを裏付ける証拠とされるのが、今回朝日新聞が報じ、前川前次官も手元に保管しているという一連の文書です。
作成は文科省高等教育局専門教育課
一連の文書の中で「獣医学部新設に係る内閣府からの伝達事項」と題した文書については、前川前次官は、「これらの文書は、大臣や次官への説明用として担当の高等教育局専門教育課が作成した物です。この”内閣府からの伝達事項”は、9月28日、次官室で専門教育課の職員から受け取りました。『官邸の最高レベルが言っていると言われました』と報告を受け、『これは厄介な話だな』と思った記憶が有ります。官邸の最高レベルということですから、総理か官房長官かな、と受け止めていました。とはいえ、文科省として筋を通した行政をしなければいけない。(略)」と述べています。
しかし、前川前次官も一言、「官邸の最高レベルって、具体的には誰なの?」と聞かなかったのでしょうか?気が利かないというか、なんとなく不自然ですね?
内閣府地方創生推進事務局の藤原審議官が文科省を恫喝
このやり取りのベースとなったのが、別の「藤原内閣府審議官との打合せ概要(獣医学部新設)※取扱注意」と題した日付入りの文書です。平成28年9月26日(月)18:30~18:55という詳細な日時に加え、対応者として内閣府地方創生推進事務局の藤原豊審議官や文科省専門教育課の浅野敦之課長らの名前が有ります。文書では、藤原審議官が浅野課長らに対して「『出来ない』という選択肢は無く、事務的にやることをやらないと責任をとることになる」と恫喝ともとれる発言をしています。
前川前次官は、「これは専門教育課内で保存している文書です。私の手元にはありませんが、藤原審議官に言われた内容をまとめたものでしょう。この26日のやり取りを28日に私に説明してくれたのだと思います」と話しています。
ここで、政府の言う「(前川前次官が)作成した文書」というのは、無理があります。前川前次官は藤原審議官とは面談していませんので、状況を詳しく書くことは出来ません。文科省の職員が作成して保管している物と考えた方が筋は通ります。
岡山理科大学の「既存の獣医学部で対応できないニーズ」の内容とは
「岡山理科大学の獣医学部新設にあたっては、鳥インフルエンザなど感染症の水際対策や、先端ライフサイエンス研究の推進が目的に挙がっていました。ところが、農水省や厚労省から、どういう獣医師がどれだけ必要なのか、という需給見通しがなかなか出てこない。(略)」と前川前次官は語っています。
獣医学部新設の目的の鳥インフルエンザなど感染症の水際対策云々は、石破地方創生大臣当時の四条件と整合性を持たせるための、取って付けたような稚拙な内容で、獣医学部を新設して鳥インフルエンザの水際対策に効果など見込めるはずが有りません。
松野文科相の問い合わせに対する対応
問い合わせの内容
一連の流れの中で松野文科大臣が、懸念事項として二点内閣府に確認するよう前川前次官に指示を出しています。一つが、開学を1年先送りして平成31年とすべきではないか。二点目が、麻生副総理、森英介議員など獣医学部新設に反対している議員がいる中で、党の手続をこなすためには、文科、農水、内閣府の合同部会もしくはPTを設置して検討を行うべきではないか、です。
内閣府の回答
これに関する内閣府の回答は、10月17日で前川前次官は、「大臣ご確認事項に対する内閣府の回答」を担当の専門教育課の職員から受け取ったようです。
その内容は、最初の質問に対しては、「設置の時期については、今治市の区域指定時より最短距離で規制改革を前提としたプロセスを踏んでいる状況であり、これは総理のご意向だと聞いている。」二つ目の質問については、「獣医は国事なので党の手続は不要。党の手続については、文科省と党の関係なので、政調とよく相談していただきたい。以前、官邸から『内閣』としてやろうとしていることを党の部会で議論するな、と怒られた。」などと官邸の意向をちらつかせてきた、というものです。
岡山理科大学に有利になるように条件変更
結局、文科省の意向は一切反映されることは無く、11月9日安倍首相がが議長を務める国家戦略特区諮問会議は、「広域的な空白地域に限り新設を認める。」という条件を新たに付加し決定しました。前川前次官によれば「原案に『広域的』という文言は無く、単に『獣医師系大学等のない地域』と記されていた。(途中省略)京都府に獣医学部は無く、京産大も条件を満たしていた。ところが、最終的に、新たに『広域的』という言葉が入っていたのです。」とのこと。これによって、近畿圏に大阪府立大学獣医師養成コースがある京産大は断念を余儀なくされた。獣医学部の無い四国の加計学園だけに絞られた。
そして、12月22日に、新設を1校限りで認めることで、内閣府、文科、農水の三大臣が合意し、加計学園の獣医学部新設が内定した、ということのようです。
昭恵夫人のフェイスブックの内容は1年前から謀議の証拠か?
前川前次官のインタビューの中で、特筆すべき証言があります。2015年12月24日に安倍首相は、加計学園の加計孝太郎氏と会食していますが、その状況について昭恵夫人がフェイスブックで、写真と同時に『クリスマスイブ。男たちの悪巧み・・・(?)』というコメントを投稿しているようです。
10月半ばに獣医師会の方々が松野文科相のところに陳情に訪れた際、持参した資料の中に含まれていた物らしく、陳情の場にいた職員が前次官のところに持ってきてみせたようです。
出典:週刊文春
※週刊文春の記事から抜粋し一部加筆修正しています。
詳細は、「週刊文春」をお読みください。
今後の展開予想
闇に消えることがない加計学園疑惑
加計学園に関する問題は、今後より一層はっきりしてくるものと思われ、闇に葬むられる事は無いでしょう。まず、獣医学部の新設に反対していた議員が、現在ほとんど発言していません。このことは、安倍首相から麻生副総理をはじめとする有力者に働きかけを行ったと思われます。そして、その動きは当然政治献金等で繋がりのある獣医師会側に「総理が一歩も後に引かないから、1校だけ認めてやってくれないか。」と言った旨の報告か要請を行ったはずです。そうすると、この問題に関して関わった実物が多すぎます。特に、反対の立場の人が多数いますので、隠しきれなくなります。 一般に、疑獄事件と言われるものは、密室での謀議と金銭のやり取りですが、今回は表で堂々とやっているので、次の証言者が出るのも時間の問題でしょう。
前川前次官の証言の背景
前川前次官及び文科省の幹部らが、新宿区歌舞伎町の出会い系バ―に入り浸っており、官邸から注意されていたことや、一連の天下り問題で責任を取らされたことに伴い、安倍政権に対して逆恨みしていたとの一部報道が有ります。その為、前川前次官が自ら作成、もしくは作成させたものを朝日新聞他のメディアに持ち込んだものの、朝日新聞以外は裏付けが取れなかったために記事にしなかったというものです。菅官房長官は出所不明の怪文書扱いで、文科相も当該文書については確認できなかったと述べていますが、存在を否定したものではありません。
政府としては、作成者及び報道機関に持ち込んだ者が、刑事告発を怖れて名乗り出ないであろう、ということを前提にしていると思われますが、逆に第二、第三の証言が出てきて事実であることが確認されれば文書の流出に関しては、告訴すらできなくなると思われます。事実、自民党の北村元議員も自分に関して書かれている内容は事実であることと、文書についても100%本物だと思う、と話しています。
しかし、一連の流れを前川前事務次官の作文と週刊文春に話したのが虚言と考えるのには多少無理が有ります。虚偽の文書や虚言は、いずれ分かることであり前川前事務次官が如何に安倍官邸に恨みがあったとしてもそこまでリスクを負うとは考えられません。公文書を持ちだすこと自体が公務員の主務義務違反となり、今後追求を受けることになり、また、名誉棄損等で訴えられる可能性も有ります。事実を曝露することで政権に揺さぶりをかけようとしていると考えた方がつじつまは合います。
報道機関による内容の相違
また、一連の文書の存在を報道したのが第二赤旗と揶揄される朝日新聞で、前川前事務次官の行状を報道したのが、政府の機関誌と言われる産経新聞と、御用新聞と言われる読売新聞であり、左右両極の報道機関の立ち位置がはっきりしています。毎日新聞については、加計学園と深い関係が噂されていますので、ほとんど関与してこないのではないか、と考えられます。
事実を隠した西山事件の教訓
政府というのは、不都合な事実については大方否定します。最も有名なのが1971年の西山事件でしょう。毎日新聞社の西山記者が沖縄返還に伴う密約を密通していた外務省女性事務官から入手して公表した事件です。この事件では、当初政府は窮地に陥りますが、東京地検特捜部が西山記者と女性事務官の不倫の事実を掴むと、週刊誌やメディアは一斉に、西山記者が女性事務官を泥酔させ強姦した上で、その弱みをネタに資料を持ち出させた、と報じます。そして、東京地検特捜部は、密約には全く触れず文書の入手経路に伴う国家公務員法違反で立件します。世論も、メディアの報道に動かされ密約問題には無関心で西山記者に対する非難に向かいます。
アメリカの機密解除によって既に公になっていますが、日本政府は密約文書の存在を否定し続けていました。また、アメリカで公開された公文書では西山記者が報じた密約以外にも多数の密約と西山記者のスクープについて口止めを依頼した文書まで存在しています。
確かに、不当な手段による情報の収集は問題です。また、全ての事実を国民に知らせるべきかどうかも議論が分かれるところで、国益に照らし合わせて判断されるべきこととは考えますが、内閣や政治家個人の保身のために不都合な事実を隠すということであれば問題です。
今回の流れも非常に西山事件のと似てきています。安倍首相が友人である加計孝太郎氏に特別の便宜を供与した重要な部分を隠蔽する手段として、前川前次官の醜聞を御用新聞を使って国民に認知させ、「教育行政に関わりながら出会い系バーに通っていたような役人のいうことは信用できない」という方向に持って行こうとしているようです。
仮にそうだとしても、この二つの問題は全く次元のことなる問題です。援助交際等の不適切な行動があったとしても、数百億円の税金を使って便宜を供与したことと並び比較は出来ません。
安倍首相の問題手法
安倍首相の政治手法は、洗練された手法では無く小学校で行われる仲良し不良グループによる山分け程度の稚拙なイメージが有ります。いつまでも、仲良し友達内閣ではまともな政治は出来ず、人材が集まらないために失言、放言を繰り返す低レベルの大臣ばかりになるのです。国会答弁でも、一国の首相としての懐の深さは感じられず、奢りに満ち溢れているように感じられます。それでも、不思議なことに支持率50%という高い数字を頂いているのが不思議ですが、支持率程度の期待を裏切らない政治をしてもらいたいものです。